弛緩出血 とは、出産を終え胎盤を取り出した後に、子宮の収縮が十分に起きず、500 ml以上の出血が起こることを言います。出血が止まらないと出血性ショックを引き起こし、死に至る恐れもあるため、迅速な処置が必要となります。
弛緩出血の原因と治療
弛緩出血の原因
弛緩出血の原因には全身性因子と局所性因子に分かれます。まず、全身性因子としては破水が起きてから分娩までの時間延長、経産婦、DIC型後産期出血があります。
次に、局所性因子としては、子宮の過伸展、子宮収縮促進薬の使用、子宮筋腫、子宮内腔の胎盤遺残物、膀胱・直腸の充満、急速遂娩、峡部裂傷などがあります。
これらの中で、弛緩出血の原因として代表的なものが、DIC型後産期出血・子宮の過伸展・胎盤遺残・峡部裂傷の4つになります。まず、DIC型後産期出血とは、子宮に限局して起こるDICです。
胎盤を娩出した後、羊水中の胎児の皮膚成分や組織因子が子宮筋層の静脈へ流入します。これによって起こる弛緩出血をDIC型後産期出血と言います。子宮筋層内に微小血栓が作られ子宮収縮を阻害し、組織因子の消費により線溶系も亢進することで、出血が止まらなくなります。
この状態が長く続くと、多臓器でも微小血栓が形成され、多臓器不全になります。次に、子宮の過伸展は羊水過多や多胎妊娠、巨大児の場合に起こります。この場合は、凝固因子や線溶系は正常なので、他の原因よりも止血しやすく、子宮底輪状マッサージや子宮収縮薬の投与により止血します。
また、胎盤遺残では、遺残部位の子宮収縮が不十分になり、弛緩出血を引き起こします。この場合の治療は遺残物の除去になります。胎盤遺残は、癒着胎盤の可能性があり、大量出血を引き起こす可能性があるので注意が必要です。
最後に、峡部裂傷とは、分娩時に子宮の過伸展などにより、峡部に裂傷を起こす病態で、裂傷部に血腫をつくります。子宮峡部には自律神経が多く集まるので、峡部が傷つけられることにより子宮収縮が障害されます。
弛緩出血の治療
弛緩出血の治療にはアルゴリズムがあります。まず、弛緩出血が疑われた場合は子宮内腔を触診します。この時に胎盤遺残などがあれば取り除きます。この後も出血が続く場合は、子宮収縮薬の投与、子宮底輪状マッサージ、双手圧迫法、子宮・膣強圧タンポン法を行います。
子宮底輪状マッサージは子宮のマッサージにより子宮収縮を促す方法です。双手圧迫法は子宮を圧迫することによって止血をする方法です。子宮・膣強圧タンポン法は子宮内腔と膣内を滅菌ガーゼで充填し、子宮の神経叢を刺激して子宮収縮を促す方法です。
これらを行っても止血ができないときは、子宮内バルーンタンポナーデを行います。子宮内腔にバルーンを挿入し、生理食塩水などを注入してバルーンを膨らませ、子宮内腔を圧迫する方法です。
この方法は峡部裂傷の場合に有効です。この方法を行っても止血できない場合は、抗DIC療法を行います。合成プロテアーゼ阻害薬や、血小板輸血を行います。
抗DIC療法でも止血できない場合は、経カテーテル的動脈塞栓術・動脈バルーンカテーテルによる血管閉塞術・開腹止血術を行います。また、これらの治療と並行して全身管理や輸血、抗ショック療法を行う必要があります。
頸管裂傷
弛緩出血と似ている病気に、頸管裂傷があります。この2つの鑑別について説明します。まずは出血状態です。弛緩出血は胎盤を取り出した後に暗赤色の出血が起こります。
一方頸管裂傷は胎児娩出直後に鮮紅色の出血が起こります。次に子宮収縮です。弛緩出血は子宮収縮が不良ですが、頸管裂傷は子宮収縮が良好です。
頸管裂傷の場合も大量出血によりショック症状を引き起こす可能性があるので、弛緩出血と頸管裂傷の鑑別をしっかり行い、それぞれに合った治療をしていくことが大切です。
最後に
弛緩出血を予防するのは難しいですが、基礎疾患として出血しやすい場合、抗凝固薬を服用している場合などは、主治医の先生とよく相談し、出産に控えましょう。
まとめ
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