胎便吸引症候群 は、お腹の中にいる胎児が胎便を気道内に吸い込んでしまい、呼吸障害を引き起こす病気です。どうして胎便を吸い込むようなことが起こるのでしょうか。また、どんな症状を現れるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
どうして胎便吸引症候群は起こるのか
成熟した胎児に起こりやすい胎便吸引症候群
胎便吸引症候群は、胎便を気道に吸い込むことによって発症する病気で、未熟な早産児には起こりにくく、成熟した正期産児や過期産児に発生しやすい病気です。
成熟した胎児が低酸素状態にさらされると、迷走神経反射によって腸の蠕動運動が活発になります。同時に、肛門の括約筋が緩むために、胎児は羊水中に胎便を排泄してしまいます。胎便とは、飲みこんだ羊水や腸液が便となったもので、緑がかった黒っぽい色をしています。
出生後0~2日に便として排泄され、胎内で排泄されることはありません。しかし、酸素が少ない状態に陥ると、胎内で羊水中に排泄してしまうのです。さらに低酸素状態にさらされている胎児は、あえぎ呼吸を行い、深く息を吸い込みます。
そのときに、胎便を含んだ羊水を気道内に吸引してしまい、胎便吸引症候群を引き起こしてしまうのです。また、胎内だけでなく、出生時の第一呼吸で胎便を吸引してしまうこともあります。
では、なぜ胎児は低酸素状態になるのでしょうか。原因はさまざまですが、妊娠高血圧症候群や貧血、胎盤期の不全、過期産が考えられています。
実際、出生時に羊水に胎便が混じっているケースは、満期産児の10~20%に見られます。このうち胎便吸引症候群を発症するのは、5%程度だといわれています。
胎便吸引症候群を起こすとどういう症状が現れるのか
胎便吸引症候群の場合、まず分娩時に羊水の混濁が認められます。そして、新生児の口や鼻の中などにも、混濁した羊水が大量に存在しています。また、胎便によって、皮膚や爪、臍帯が黄色く変色(黄染)していることもあります。
胎便を気道内に吸い込むと、末梢気道(内径が2mm未満の小気管支や細気管支)に胎便が詰まってしまい、さまざまな症状が現れます。末梢気道が完全に詰まってしまうと、それよりも先にある肺胞がつぶれてしまい、無気肺になります。
また、末梢気道が不完全に詰まってチェックバルブ(逆止弁)のようになってしまうと、吸った息は通しますが、吐く息を通さなくなります。そうすると、詰まった箇所よりも先にある肺胞はどんどん膨らみ、過膨張となります。
こうした無気肺や過膨張によって、多呼吸や呻吟呼吸(息を吐くときにうなり声を出す呼吸)といった呼吸窮迫症状を引き起こすのです。
らに胎便は、気道に対して刺激性を有しているために、炎症を引き起こして化学性肺炎になることもあります。これら化学性肺炎や肺胞の過膨張などによって、肺胞の膨らみを保っている界面活性物質(肺サーファクタント)が活性を失ってしまい、肺胞がつぶれて無気肺になるケースもあります。
便吸引症候群では、これらの症状が単独ではなく、合併して現れることがよく見られます。
新生児遷延性肺高血圧症になることも
胎便吸引症候群などによって、血液中の酸素が不足した状態が続くと、新生児遷延性肺高血圧症を発症することがあります。通常、胎児は呼吸の必要がないため、肺血管抵抗が高くなっています。
しかし、出生して呼吸を開始すると、速やかに肺血管抵抗が下がり、肺に血液が流れやすくなります。一方、胎便吸引症候群などになると、呼吸を開始しても肺血管抵抗が下がらず、胎内にいるときのように、血液が肺に流れにくいままになるのです。
これが新生児遷延性肺高血圧症です。体血圧よりも肺血圧が高い状態が続くと、心臓の卵円孔が閉じないだけでなく、より肺血圧が上昇することになり、高度な低酸素血症が持続します。極めて予後不良な重篤な疾患です。
胎便吸引症候群の治療とは
胎便吸引症候群の治療は、新生児遷延性肺高血圧症になるのを防ぐために、速やかに行われなければなりません。
まず、胎便の吸引と気道の洗浄が行われます。洗浄には、生理食塩水や人工肺サーファクタント希釈液が用いられ、排液に胎便が含まれなくなるまで徹底的に行われます。
洗浄終了後、通常濃度の人工肺サーファクタントが補充されます。呼吸障害がある場合は、気管チューブを挿管して人工換気の処置がなされます。ただし、人工換気は気胸につながることもあるため、軽症の場合は挿管せずに酸素投与などで呼吸を管理することがあります。
また、肺炎予防のために、抗菌薬を投与することもあります。胎便吸引症候群は、細菌性肺炎や気胸、縦隔気腫を合併しなければ、徐々に症状は改善されていきます。
まとめ
どうして胎便吸引症候群は起こるのか
成熟した胎児に起こりやすい胎便吸引症候群
胎便吸引症候群を起こすとどういう症状が現れるのか
新生児遷延性肺高血圧症になることも
胎便吸引症候群の治療とは