妊娠初期からエコー検査が頻繁に行われるようになり、卵巣腫瘍がたまたま見つかるケースが増えてきました。妊娠中では、すぐに治療ができないこともあり、緊急を要するものかどうかで対応が変わってきます。
今回は、慎重な対応が必要となる「 妊娠 と 卵巣腫瘍 」についてお話しします。
妊娠と卵巣腫瘍
妊娠中に卵巣腫瘍が合併する頻度とは?
日本では、妊娠初期に産婦人科でエコーをするのが一般的です。この時に、1~4%の頻度で、卵巣腫瘍が見つかると言われています。
妊娠時に卵巣腫瘍を合併していることから、「妊娠合併卵巣腫瘍」とも言われます。妊娠合併卵巣腫瘍のうち臨床上問題となる卵巣腫瘍の頻度は、1,000人の妊婦に対して2例ほどで、悪性卵巣腫瘍は非常に頻度が低く、12,000〜25,000 人の妊婦に対して1例とされています。
妊娠合併卵巣腫瘍の診断
診断にはまずエコー検査が行われます。診断で重要となるのは、「真性腫瘍と黄体のう胞の鑑別」「悪性の否定」です。
まず、「真性腫瘍と黄体のう胞の鑑別」ですが、妊娠時には受精卵が分泌するホルモンが卵巣内の黄体を刺激して、「黄体のう胞」が生成されることがよくあります。一見、良性腫瘍の「卵巣のう腫」のようにも見えるため、本当の腫瘍(真性腫瘍)かどうかを見極める必要があります。
5cm以下では黄体のう胞が多くなります。腫瘍の中身の性質を詳しくみるためには、MRI検査が有効です。
悪性腫瘍は、「充実性腫瘍(中身がつまった腫瘍)」であるため、黄体のう胞とは様子が異なりますが、さらなる検査としては血液検査やMRI検査が行われます。
MRI検査は、放射線ではなく磁気を使った検査であり、妊娠中も安全性が高い検査として施行されていますが、妊娠初期では安全性が保証されていないため、妊娠14目以降の検査が推奨されています。
卵巣腫瘍合併妊婦の問題
卵巣腫瘍は良性であっても茎捻転を起こすリスクがあります。妊娠初期に起こりやく、流産の原因となります。それ以降の時期に起こると、早産の原因になります。腫瘍が大きい場合は、胎児を圧迫して胎位異常や分娩遷延の原因となることもあります。
悪性の場合は、腫瘍の組織型や進行期などから、緊急の治療が必要となることがあります。妊娠の周期によっては、中絶も視野に入れた対応が必要となり、妊娠を継続する場合でも、抗がん剤使用による胎児への影響も考慮しなければなりません。
妊娠中の卵巣腫瘍治療
良性の卵巣のう腫の場合、7cm以上の腫瘍は妊娠15週頃に予定手術を行います。良性と思われる充実性腫瘍でも、悪性の可能性は否定できないことや良性腫瘍同様茎捻転を起こすリスクがあることから、5cm以上であれば妊娠15週頃に予定手術を行います。
茎捻転・卵巣腫瘍の破裂ではいずれの腫瘍でも緊急手術が必要となります。
悪性腫瘍の場合は、抗がん剤治療がメインとなります。転移している末期癌では手術の適応はないため、抗がん剤が唯一の治療です。
しかし、妊娠前期の抗がん剤治療は胎児の先天奇形が高率に発症することが明らかになっています。そのため、「抗がん剤・胎児娩出(出産)・腫瘍摘出」、この三者を行うタイミングや、どう組み合わせるかなど慎重に検討する必要があり、各症例で対応が異なってきます。
卵巣腫瘍合併時の分娩
良性腫瘍の場合は、妊娠中に手術の有無にかかわらず、経膣分娩が可能です。悪性の場合は、症例によるため一概には言えません。帝王切開と同時に腫瘍を切除することもあれば、抗がん剤治療のみで経膣分娩のこともあります。
まとめ
妊娠と卵巣腫瘍
妊娠中に卵巣腫瘍が合併する頻度とは?
妊娠合併卵巣腫瘍の診断
卵巣腫瘍合併妊婦の問題
妊娠中の卵巣腫瘍治療
卵巣腫瘍合併時の分娩