出産を終えると女性の身体は、6週間ほど掛けて妊娠する前の状態に戻ります。この期間を産褥期と言い、出産で変化した子宮の形やホルモンバランスなど体力を回復させる大切な時期です。そのため産褥期は出産で伴った出血を止めるため、体内では血液凝固が進みます。
血液凝固は回復には、なくてはならない症状ですが、同時に血管内に血栓を作る血栓性静脈炎を起こす原因ともなっています。産褥期に 血栓性静脈炎 になる確率は非妊娠時の5倍も高くなり、産後に最も気を付けなければならない、疾患の一つだと言えます。
産褥期に気を付けたい血栓性静脈炎
血栓性静脈炎の症状
産後1週間前後に発熱があると、血栓性静脈炎を発症している可能性があります。症状は発熱の他にも、むくみや腫れ、うっ血などが見られます。
うっ血は、静脈内に血栓ができることで血液が血管内に溜まり、皮膚の表面に血管が浮き出た状態になることで、皮膚に炎症を起こすこともあります。
産褥期の血栓性静脈炎は血栓が皮膚の表面に近いところにできる場合(表在性)が多く、発症するのは外陰部や足の付け根から膝に掛けての内腿部分に多く見られます。
また血栓が筋肉の中の静脈にできた場合(深在性)は、太腿やふくらはぎの広い範囲が紫色に変色し、痛みを伴うことがあります。この場合は血栓ができている場所を特定するのは難しく、超音波検査で患部を特定し治療をおこないます。
血栓性静脈炎の原因
血栓性静脈炎は血管の損傷が大きいほど発症リスクは高くなります。このため経腟分娩よりも帝王切開で出産した方が発症する確率が7~10倍も高くなります。また長時間同じ姿勢で安静にすることも血行が悪くなるので、安静臥床は血栓性静脈炎を助長させてしまいます。
肥満で静脈弁が圧迫され血流が停滞することや、脱水症状によって血液の濃度が上がってしまうことも原因となります。その他にも遺伝性の血液凝固異常の体質であることや、高血圧や糖尿病などの持病がある場合もリスクが高くなります。
血栓性静脈炎の治療
血栓が表在性の場合は比較的軽症で患部に圧迫包帯を巻き、足を30度ほど高くして安静にすることで改善します。
痛みがある場合は局部に湿布を張ったり、鎮痛剤を服用します。しかし症状がなかなか改善しない場合や、深在性の血栓である場合は血液を固まりにくくする薬を服用します。重症や緊急を要する場合は手術で血栓を取り除くこともあります。
重症化すると怖い深在静脈血栓症
患部が特定しにくい深在性静脈血栓症の場合、放置すると4~5%の割合で、血栓の一部が剥がれて血流に乗って肺まで届き、肺塞栓症を引き起こすことがあります。
妊婦死亡の原因の70%は、この肺塞栓症だと言われ、発症すると15%が死に至る非常に危険度の高い合併症だと言えます。症状は呼吸困難や突然の胸痛などがあり、早急に治療しなければいけません。
主な治療は血栓を溶かし血流を促す薬物治療となりますが、重症の場合は血管内の血栓を吸引したり、砕いたりして取り除くカルーテル(細い管)療法や、手術によって血栓切除をおこなうなど外科的な治療が必要となります。
血栓性静脈炎の予防
血栓性静脈炎は発症する原因がある程度特定できるため、産前産後に予防対策をしっかり取れば、重症化することを防ぐことができます。
妊娠中の段階でリスクを伴う疾患がある場合や帝王切開で出産することが決まっている場合は、予防的に抗凝固薬を服用したり、弾性靴下や弾性ストッキングを装着します。
また、入院中に寝たきりとなることも血栓ができる原因となるため、産後はできるだけ早く離床し、1時間おきに足首や足の指を動かす運動をすることで予防できます。
まとめ
産褥期に気を付けたい血栓性静脈炎
血栓性静脈炎の症状
血栓性静脈炎の原因
血栓性静脈炎の治療
重症化すると怖い在性静脈血栓症
血栓性静脈炎の予防