精子と卵子が出会って受精し、子宮内に着床することで起こる妊娠。これは生命の始まりとなるとても神秘的なことです。しかし中には着床しても、残念ながらうまく妊娠までたどり着けない場合があります。今回はその病態の一つ、 胞状奇胎 の 治療 についてご紹介します。
胞状奇胎の治療と妊娠
通常の受精~着床の流れについて
精子と卵子が受精したら2週間ほどで子宮内に到達し、子宮内膜に着床します。通常だと、これで妊娠が成立したことになります。このとき受精卵は、胎児になる部分の「胎芽」と、胎盤になる部分の「絨毛」に分かれます。
絨毛とは、受精卵から伸びた細かい根っこのようなもので、母体から酸素や栄養素などを運ぶはたらきをします。また、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)とよばれるホルモンを分泌して、卵巣にある黄体を刺激します。
これにより、妊娠を維持するための黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌を促進するはたらきを持っています。
胞状奇胎とは
胞状奇胎とは、「絨毛」部分が水膨れのように嚢胞状変化を起こし、異常増殖したものです。放っておくと子宮内腔がこの嚢胞化した絨毛で覆い尽くされてしまいます。昔は発見が難しく、かなり進行してから見つかることが多かったため、嚢胞が発達してブドウの房のように見えたことから「ブドウっ子」とよばれていました。
しかし現在では超音波検査での発見が容易になったため、初期状態で発見されることが多くなっています。
種類と原因
胞状奇胎は、主に精子の染色体異常が原因と言われており、全胞状奇胎と部分胞状奇胎の2種類があります。
全胞状奇胎とは胎芽の発育が認められず、絨毛のみが増殖していく状態です。これはもともと核をもたない卵子に精子が受精するか、受精後に何らかの原因で卵子の核が消失してしまった場合に精子のみが分裂していくことで起こるといわれています。
部分胞状奇胎とは、胎芽の発育も多少なりとは認められるものの、絨毛が異常増殖した状態です。これは1つの卵子に2つの精子が入り込むことで起こります。いわば一卵性双生児の片方で精子核の異常分裂が起こった状態と同じです。
この場合、もう片方の胎児は正常であることもありますが、胞状奇胎は絨毛癌に移行するリスクがあるため、殆どの場合は妊娠継続を断念せざるを得なくなります。
症状
胞状奇胎でもごく初期には自覚症状はありません。胞状奇胎は絨毛が異常増殖するため、分泌されるhCGの量も多くなります。そのためホルモンバランスの影響で、吐き気や嘔吐などの、重いつわりのような症状がでます。
また異常増殖によって子宮が傷つけられ、茶褐色のおりものや出血がみられる場合や、妊娠高血圧症候群(むくみ、高血圧、尿たんぱく)の症状がみられる場合もあります。
また、妊娠検査薬はhCGが尿中に出るか出ないかで妊娠を判別します。そのためhCGが大量に分泌される胞状奇胎でも、妊娠検査薬は陽性となるため、妊娠超初期~初期にかけては通常妊娠と区別がつきにいのが現状です。
検査
1つは経腟超音波検査にて検査を行います。通常であれば胎嚢あるいは胎芽が認められますが、胞状奇胎の場合は多数の嚢胞状の組織が認められます。
もう1つは血液検査や尿検査にてhCGの量を調べます。胞状奇胎は絨毛が異常増殖する病気なので、通常妊娠に比べてhCGの分泌量がはるかに多くなります。
治療
胞状奇胎と診断されたら、手術にて胞状奇胎を取り除くことが第一選択となります。ほとんどの場合、子宮内の胞状奇胎組織のみを取り除く「子宮内容除去術」が行われます。
胞状奇胎では子宮が通常と比べてかなり柔らかくなっており、除去操作によって子宮に穴をあけてしまう可能性があるため、通常2回に分けて手術が行われます。
また高齢である場合や、胞状奇胎がかなり進行している場合は、絨毛癌に移行する可能性が高くなります。そのため、子宮自体を摘出する「子宮全摘術」や、併用して化学療法が行われることもあります。
その後の治療と妊娠
胞状奇胎の手術が終わったら、術後数ヶ月にわたって血中・尿中のhCG量の観察をします。術後経過が良ければ、通常hCG量は減少します。しかし減少しない場合や、減少しても再上昇がみられる場合は、胞状奇胎の残存や絨毛癌に移行している場合があるため、検査が行われるようになります。
また胞状奇胎の治療後は、医療機関にもよりますが、半年~2年ほどで妊娠が可能になります。しかし胞状奇胎の治療中に妊娠してしまうと、妊娠によりhCG量が増加してしまい、正常なのか再発なのか区別がつかなくなってしまいます。
そのため、医療機関から許可が下りるまで、必ず避妊期間は必ず守ることが大切です。
まとめ
胞状奇胎の治療と妊娠
通常の受精~着床の流れについて
胞状奇胎とは
種類と原因
症状
検査
治療
その後の治療と妊娠