昔と違い、妊娠中の母体に対する管理体制が整っていることにより分娩時に死亡することが少なくなりました。ただ、分娩時と分娩後は依然危険な出血が起こる可能性はあり、母体死亡の3割は分娩後の異常出血です。 分娩後異常出血 について解説します。
分娩後異常出血って?発症の予防はできる?
分娩後異常出血とは
妊娠中から分娩や産褥期にかけて異常出血する疾病は多々ありますが、分娩後に異常出血を起こす場合を分娩後異常出血といいます。正常な経膣分娩の出血量は500ml以内、帝王切開の出血量は羊水を含んで1000ml以内です。
特に疾患がない母体の場合には、妊娠末期の血液量は6000ml程度と推定されます。分娩時から産褥期までの出血量を総計して1000ml以内であれば母体の機能には影響はないと考えられています。
しかし分娩後異常出血は発症の予測が困難で、予防も難しいのが現状です。万が一発症すると母体の状態が急変し、命に関わるほどの危険な状態になります。
実は分娩時と分娩後の出血は母体死亡の原因の3割にも上るものです。
分娩後異常出血の原因とは
分娩後24時間以内であれば弛緩出血(胎盤の剥離面から出血した血が子宮内に溜まり、子宮が収縮するタイミングで大量出血する)、産道裂傷、子宮破裂、子宮内反(急激な疼痛と持続性のある出血が診られ、疼痛によりショック状態になる場合もある)、胎盤遺残、癒着胎盤などが考えられます。
分娩後24時間~6週までの異常出血の場合は感染、胎盤ポリープなどです。
分娩後異常出血の症状とは
上記の原因により、初期にどのような症状が起きるかは一概には言えません。しかし出血量が増えると血圧低下はもちろん脈拍微弱、頻脈、意識障害などの出血性ショック症状が起こってきます。
母体をショック状態から早期に改善できない場合、多臓器不全や血液凝固障害などを併発してしまい、生命の危険が及びます。
特に子宮破裂(以前に帝王切開や子宮筋腫等核出手術の経験がある妊婦が経膣分娩を行った場合で、子宮収縮も問題なく、産道損傷に対する処置を行っているにも関わらず、持続的な出血状態が続いてしまう)、弛緩出血、常位胎盤早期剥離などが短期間で重症化する場合があり危険です。
分娩後異常出血の治療法とは
異常出血が起こった場合、その原因を調べるために緊急の内診や超音波診断、血圧、脈拍数測定などの検査を行います。必要に応じてMRIも行うことがあります。
出血の原因を特定するためには、出血部位の特定が最重要です。特に痛みを訴える部位の確認、子宮収縮の状態、産道裂傷や血腫の状態確認などを段階的に行っていきます。
状態を改善するための治療と並行して止血を行います。出血性ショックや播種性血管内凝固症候群(DIC)により止血が不可能となることを防ぐためにも早期解決が重要です。
特に重症化しやすい3種類の異常出血の治療法を確認していきましょう。弛緩出血の場合、まずは双手(そうしゅ)圧迫法という両手で子宮を圧迫する方法がとられます。
ほかには子宮収縮薬を静脈注射や筋肉注射で行ったりして子宮の収縮を促していきます。止血がどうしても不可能な場合には子宮全摘除術や膣上部切断術が行われます。
子宮破裂の場合、輸血や輸液によって全身状態を管理した上で早期に開腹手術を行い、破裂創からの出血を止めるようにします。場合によっては子宮全摘出になることもあります。
常位胎盤早期剥離の場合、基本は速やかに母体と胎児の状態を把握し、速やかに経膣分娩か帝王切開により胎児を娩出します。
播種性血管内凝固症候群(DIC)に対する予防措置を施します。輸血は、全血液量の20~40%の出血を確認した場合に行います。
妊娠期間中に分娩後異常出血を予防する方法とは
分娩後異常出血は、実際に出産を行ってから発症するものですから予防は困難です。ただし、前置胎盤や多胎妊娠などの多量出血が起こり得る疾患を持っている場合には、自己血輸血という自分の血を万が一の場合の輸血に使う準備をしておく場合があります。
分娩の前に血液検査を行って血液が持つ凝固能力の検査を行ったり、内診で産道裂傷や血腫の有無、子宮の状態などを担当医師に確認してもらったりすることでリスク回避に繋がることはあります。
自分が不安に思うことがあれば担当医師に相談して確認をしてもらうことで安心して分娩に臨むことができるでしょう。
まとめ
分娩後異常出血って?発症の予防はできる?
分娩後異常出血とは
分娩後異常出血の原因とは
分娩後異常出血の症状とは
分娩後異常出血の治療法とは
妊娠期間中に分娩後異常出血を予防する方法とは